
こんにちは、さいたま猫です。
今日は、少し背筋が凍るような、でも絶対に目を逸らしてはいけない「お金」の話をします。
私は日々、介護認定調査員として多くのお宅を訪問し、同時に行政書士や宅建士、後見人として、高齢者の方々の「人生の出口戦略」をお手伝いしています。その現場で今、もっとも恐ろしいと感じているのが**「資産凍結」**です。
「親の通帳の場所は知っているから大丈夫」「暗証番号も聞いてあるし」 そう思っているあなたにこそ、この2500文字を捧げます。
1. 銀行窓口で凍りつく家族たち
「えっ、父のお金なのに下ろせないんですか?」
銀行のロビーに響く、震える声。窓口で真っ青な顔をして立ち尽くす娘さんに、私は何度も遭遇してきました。
2026年現在、認知症の方が保有する金融資産は、日本の個人金融資産の約1割、約200兆円に達すると予測されています。想像がつかないほどの巨額ですが、これは決して遠い国のニュースではありません。
あなたの親御さんが、ある日突然、銀行のATMで操作を間違える。不審に思った銀行員が声をかけ、親御さんがうまく答えられない。その瞬間、**「本人の判断能力に疑いあり」**として、口座はロックされます。
これが「資産凍結」の始まりです。
2. なぜ「善意のルール」が家族を苦しめるのか?
銀行が口座を凍結するのは、決して嫌がらせではありません。
- 親族による勝手な使い込みを防ぐため
- 悪質な詐欺被害から預金を守るため
名義人の判断能力が失われた以上、銀行は「本人の財産を守る」ために凍結せざるを得ないのです。しかし、この善意のルールが、現実には**「介護費用が払えない」**という地獄のような逆転現象を引き起こします。
【宅建士の視点】実家の売却ができないという罠
私が宅建士として最も頭を悩ませるのが、不動産が絡むケースです。
「親の介護施設への入居が決まった。一時金に数百万円必要だから、誰も住まなくなる実家を売って費用に充てたい」
これは非常に合理的な判断です。しかし、親御さんが認知症で「売却の意思表示」ができない場合、その売買契約は法律上無効となります。家を売るためには、まず家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」を選任しなければなりませんが、これには数ヶ月の時間がかかります。
その間、施設の入居費、日々の介護用品代……これらはすべて、**子どもの持ち出し(立替え)**になります。1ヶ月や2ヶ月なら耐えられても、半年、1年と続けば、子どもの家計が先に破綻してしまいます。
暗証番号を知っていても「アウト」な時代
「暗証番号を知っているから、こっそり下ろせばいい」と考える方もいるでしょう。しかし、最近の銀行のAIや窓口のチェックは非常に厳格です。
70代、80代の高齢者の口座から、突然まとまった金額が引き出されたり、窓口で付き添いの子どもが代わりに答えたりすると、すぐに「ストップ」がかかります。一度疑念を持たれた口座で強引に引き出しを続けようとすれば、それは**「不当な預金の払い戻し」**としてトラブルになり、最悪の場合、親族間での訴訟にまで発展するリスクを孕んでいます。
3. 【対策】今すぐできる「凍結防止」の3ステップ
認定調査員として、また後見人の現場から、私が相談者に必ずお伝えしている「今すぐできること」を3つにまとめました。
① 「代理人指名」の登録(まずはここから!)
多くの銀行で、本人が元気なうちに「いざという時に代わりに手続きできる人」を指定できるサービスがあります。手数料もかからず、最も手軽な対策です。親御さんがまだしっかりしているうちに、一緒にメインバンクへ行きましょう。
② 「家族信託」の検討(資産が多い場合)
資産の管理権を、あらかじめ子どもに託しておく契約です。初期費用は数十万円ほどかかりますが、これをしておけば、親が認知症になっても子どもが自分の判断で親の預金を下ろしたり、実家を売却したりできます。凍結リスクをほぼゼロにできる最強の防衛策です。
③ 「小口現金」の確保と共有
万が一の際、後見人の選任や手続きが完了するまでの「空白の数ヶ月間」を生き抜くための現金を、親御さんの口座以外に確保しておくことも現実的な選択肢です。ただし、これは親族間で「介護費用として使う」という明確な合意と記録(領収書の保管)が不可欠です。
4. 普遍的なテーマ:「準備」は最期まで自分らしく生きるためのプライド
ここで少し、お金そのものの話から離れてみましょう。
親御さんにとって、その通帳に刻まれた数字は、単なるお札の枚数ではありません。 若い頃に汗水垂らして働いた記憶、節約して子どもを育て上げた自負、そして老後を誰にも迷惑をかけずに生きたいという**「人生の証」**そのものです。
その大切なお金が、誰にも使われずに銀行のシステムの中で眠り続け、本人が必要な介護も受けられない……。これはあまりにも悲しい結末だと思いませんか?
「親とお金の話をするのは気が引ける」 「遺産を狙っていると思われたくない」
その優しさは、時には残酷な結果を招きます。親御さんのプライドを守り、その資産を100%親御さんの幸せ(良い施設、心地よいリフォーム、美味しい食事)のために使い切る。そのための「道筋」を作っておくことこそが、現代における最高の親孝行だと私は確信しています。
まとめ:沈黙を破り、お茶を淹れよう
200兆円という数字は、いわば「家族の対話不足」の集積です。
この記事を読み終えたら、ぜひ親御さんの顔を見に行ってください。難しい法律の話はいりません。 「お父さん、お母さん。最後まで安心して暮らしてほしいから、ちょっとだけお金の『守り方』について一緒に考えさせて」
そう切り出す勇気が、家族の未来を救います。
さいたま猫でした。


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